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(情報掲載日:2015年1月13日)

いまを勝ち抜く人間力

落語に学ぶコミュニケーション術

VOL.36

落語の中にあるユーモアは、相手が初対面であっても、気分をなごませ、会話を弾ませてくれます。落語を通じて学べるコミュニケーション術についてご紹介します。

落語は大人の教養として発展した

●落語は大人の教養

日本の伝統を感じさせる風物が好まれる正月には、テレビに落語家が登場する機会が増えますが、ふだんは落語になじみのない人がほとんどかもしれません。ただ、落語は大人の教養と言われるように、年齢を重ねると落語の世界に魅力を感じる人が増えてきます。最初は敷居が高いかもしれませんが、名人と呼ばれる落語家の落語に触れてみれば、思わず笑いがこぼれるはずです。落語には独自の歴史や決まり事があり、それを踏まえておくと分かりやすくなり、味わいが深くなります。


●平安時代から笑い話を楽しむ習慣があった

日本には古くから滑稽な話を楽しむ習慣がありました。平安時代や鎌倉時代に編纂された説話集『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』には、多数の滑稽な話が収められています。当時は僧侶が説教を語る時にこれらの滑稽な話を題材にし、中には美声と話術と男前の容姿でタレント並みの扱いを受けた人もいたそうです。こうした僧侶たちの中で名を残すのが豊臣秀吉に仕えた安楽庵策伝で、策伝が残した『醒睡笑』全8冊に収められた話には最後に「オチ」がつき、現在演じられている小咄や落語の母体になったものも数多く見られます。そもそも落語は必ず「オチ」がある話であることから、落語と呼ばれるようになったと考えられています。


●江戸時代には200軒以上の寄席でにぎわった

江戸時代に、落語は庶民の娯楽として発展します。五代将軍・綱吉の治世である元禄期(1688年〜1704年)には、大道芸で演じた京都の露の五郎兵衛、神社の境内に仕立てた小屋で演じた大阪の米沢彦八、お屋敷を訪問して演じた江戸の鹿野武左衛門が人気となり、いずれも不特定多数を聴衆として料金を取っていることから、この3人が落語家の祖と呼ばれています。寛政期(1789年〜1801年)になると、落語は当時流行していた浄瑠璃、小唄などとともに、「寄せ場」と呼ばれる場所で興行が行われるようになりました。これが現在の寄席の始まりです。諸説ありますが、江戸市中は最盛期には200軒以上の寄席でにぎわっていたようです。当時の人口は80万人程度と見られますから、寄席は現代におけるカフェと同じくらい庶民にとって近しい存在であり、大人の社交場でもありました。当時の寄席は座敷席で、思い思いの格好でくつろぎ、観客同士でしゃべりながら演目を楽しんでいたようです。


●身振りと声色でさまざまな役柄を演じ分ける

落語は1人座って演じる芸であり、題材は滑稽な話や人情に訴える話、幽霊話など、江戸時代から伝わる古典落語に現代の新作が加わり、演目は数百にものぼります。落語の登場人物は長屋の住人や大家、老舗のご隠居さんといった庶民であり、落語家は扇子と手ぬぐいの他は何も持たずに、身振りと声色だけで老若男女の役柄を演じ分けます。この落語家の「しぐさ」と「表情」が見どころで、同じ酒を飲むしぐさでも、町人と大名を演じ分け、泣く表情では女、男、子どもで変化をつけます。小道具は扱い方次第で、扇子はお箸や煙草のキセル、釣り竿や包丁などに、手ぬぐいは本や手紙、財布などに化けてしまいます。このような技によって、観客は想像力をかき立てられ、落語の世界へ引き込まれていきます。


●落語に見られるサービス精神がコミュニケーションの原点

大正時代に映画という新しい娯楽ができてからは、落語は多くの観客を奪われてしまいます。ラジオやテレビの時代になると、落語家はタレントとして多方面で活躍するようになりましたが、寄席にはよほどのファンでないと足を運ばなくなりました。寄席の社交場としての役割は終わりましたが、落語には「面白い話で人を楽しませる」というサービス精神があふれています。このような落語のサービス精神が、人と人のコミュニケーションを良好にするのにも役立ちそうです。

話の切り出し方をマクラに学ぶ

●落語のマクラとは

落語の構成は、「マクラ」、「本題」、「オチ」の三部構成となっており、「オチ」は「サゲ」とも呼ばれます。三味線に笛と太鼓の出ばやしが鳴り響く中、落語家が舞台の袖から登場し、高座に上がると、いきなり本題に入るのではなく、軽い小咄で観客を笑わせてくれます。この小咄が「マクラ」であり、「ちはやぶる」「たらちねの」といった和歌の枕詞の「枕」に由来します。マクラは言わば笑いのウォーミングアップのようなもので、通常、本題の予告やヒントになる題材や登場人物が出てきます。
落語にマクラがないのは味気なく、挨拶や世間話もせずに、いきなり商談に入るようなものです。落語は観客に語りかける話芸であり、ただ古典作品を読み上げるだけではありません。軽い小咄で、観客の笑いの反応を見て、その日その場の観客とのコミュニケーションを何よりも大切にしています。
例えば、「たいこもち」などは落語によく出てくるキャラクターですが、現代ではその意味を知る人が少なくなっているので、マクラで「宴席で、後から出てくる女性の芸者さんたちの引き立て役になる、出張芸人のようなものです」などといった解説があれば分かりやすくなります。このように、マクラには「こういうことを知っておくと、この後のお話の展開を楽しめますよ」というヒントが隠されており、マクラでいかに観客の心をつかむかが落語家の腕の見せどころといえるでしょう。


●相手の興味関心をそそる話題から始める

マクラをビジネスの場面での会話に応用するとしたら、本題に入る前に、相手の興味関心をそそる話題から始めると良さそうです。初対面の相手や、知り合ってからの期間が短い相手であれば、お互いの共通点が分かると、距離が縮まってくるものです。
かといって、その場であれこれ質問するのも相手の気分を害するかもしれません。前任者などから出身地、好きなスポーツ、好きな食べ物などの情報を収集し、それに合わせた話題を振るといいでしょう。相手がうれしそうに応じてくれたら、「さすがですね」などとほめ、本題に入るとスムーズでしょう。例えば相手がグルメな方であると知っていれば、「寒いと鍋がいいですね。私は博多出身なので、鍋なら水炊きが一番好きです」などと話題を振り、相手が「水炊きといえば、あの濃厚な白濁スープが特徴ですね」などと語り出したら、「さすがに食通ですね」「近くに美味しい店がありますよ」などと話をつなげていくことができるでしょう。


●時節に合う話題で共感を誘う

事前に相手についての情報を得ることができない場合は、暑いとか寒いといった、誰しも感じる生理的な感覚につながる話題や、年間行事や季節の風物詩、時事問題といった多くの人が関心を持っている話題であれば、初対面の相手でも共感を誘い、スムーズに本題へ入っていけるでしょう。そのために、季節の話題、祭などの年中行事を知っておくと役立ちます。新聞記事やテレビのニュースも、自社に関係する業界や商品の情報ばかりでなく、1面トップに掲載されるような話題についてもチェックしておくとよいでしょう。

想像力をかき立てる話術に学ぶ

●「テンポ」を効果的に使う話術

落語は、同じ演目が繰り返し演じられ、「オチ」が分かっていても、何度聞いても笑ってしまいます。その理由の1つは、落語家の話術にあります。目を閉じて落語を聞いていると、まるでまぶたの裏にその場の状況が見えるかのような再現力があります。
有名な演目である「時蕎麦」は、ある冬の深夜、小腹が空いた男Aが通りすがりの屋台のそば屋を呼び止め、蕎麦を注文し、店の看板、箸、器、汁、麺、具などをひたすらほめ上げ、店主を良い気分にさせておき、あるトリックを使って代金を1文ごまかすという他愛ない話ですが、有名な小銭を数えるシーンが始まると、お約束のように観客はクスクスと笑い出します。そして「いま、なんどき?」という有名なセリフに至れば、どっと笑いが起き、その後の落語家の声がかき消されるほどです。
そのトリックとは、男Aが蕎麦代16文を払うのに、「おい、親父。生憎と、細けえ銭っきゃ持ってねえんだ。落としちゃいけねえ、手え出してくれ」と言い、主人の掌に1文を1枚1枚数えながら、テンポ良く載せていきます。「1(ひい)、2(ふう)、3(みい)、4(よう)、5(いつ)、6(むう)、7(なな)、8(やあ)」と数えたところで、「今、なんどきでい?」と時刻を尋ねます。主人が「へい、9つでい」と応えると間髪入れずに「10(とう)、11、12、13、14、15、16、御馳走様」と続けて16文を数え上げ、すぐさま店を去ります。前置きの蕎麦屋のあれこれをほめる口調も早口で演じられ、この銭勘定の場面まで一気にまくしたて、店主の耳をあざむきます。このような会話のテンポの良さが落語の魅力の1つです。


●「音」を効果的に使う話術

落語家の話術はそう簡単にはマネできるものではありませんが、「時蕎麦」の蕎麦をすする擬音、通りがかりの男A、その男のマネをして小銭をごまかそうとして逆に失敗する間抜けな男B、蕎麦屋の店主など複数の役を使い分ける声色といった「音」の効果を、日常の会話に採り入れてみたいものです。例えば誰かの意見を紹介するときに、「Aさんは……と言い、Bさんは……と言いました」などと間接話法を使うよりも、Aさん、Bさんを声色で演じ分ければリアリティが感じられて、印象に残ります。また、「緊張した」を「ドキドキした」、「面白そうだと思った」を「わくわくした」、「焦った」を「ヒヤヒヤした」などと、擬音的な言葉に置き換えると、耳に残りやすくなるという効果を期待できます。


●「色」を効果的に使う話術

「子どもは真っ白な糸のようなもので、親御さんの染め方しだいでいろいろな色に変わってくるものでございます」とは、「雛鍔(ひなつば)」のマクラの一節です。やがて子どもが成長して周囲の影響で悪いことも覚えるようになることを「朱に交われば赤くなる」と落語家は表現し、ただ、「白に1点赤い色がつけば小さくても目立つが、赤に1点白い色がついてもさほど目立たない」と、畳みかけるような色彩描写効果で観客の心の中のイメージに色をつけていきます。
このように「色」を効果的に使った落語がいくつかあり、日常会話の中に採り入れてみたいものです。「秋空のような透き通った青」などと、色調や明るさ、濃淡まで思い浮かべられるような色の描写を加えていくと、相手の心に鮮やかなイメージが残ります。


●飾らない自分で距離を縮める

落語で主人公になるのは、たいてい「間抜けな失敗をする憎めない男」です。前述の「時蕎麦」の主人公は、まんまと蕎麦代をごまかした男Aではなく、近くでその様子を見ていた間抜けな男Bのほうです。違う日に別の蕎麦屋でずる賢い男のマネをしようとしますが、どれも粗悪品を出す店であったのでほめようにもほめられず、とんちんかんな言葉で取り繕う間抜けさに笑わされます。釣り銭を数えてごまかそうとするシーンでは、そのときの時刻が男Aと同じ「9つ」(深夜0時頃)ではなく「4つ」(午後10時頃)だったため、「8つ」まで数えたのに、また「5つ」から数え直すハメになり、結局、4文も多く払って損をしたという大爆笑のオチになるわけです。
江戸の昔から、多くの人に愛されたのは、ずる賢く世間を渡っていく人物よりも、間抜けな失敗をしても憎めない男のほうだったのでしょう。現代でも、何かと自分の自慢話ばかりをするような人物よりも、自分の失敗談や欠点を笑い話にかえて話すような人物のほうが親しみを持たれやすいようです。

落語を聞けば、一瞬にして江戸時代にタイムスリップしたような気分に浸れます。落語の世界の中で、登場人物たちは歯切れのいいリズムで会話を楽しみ、相手に対する配慮も見せながらも、自分の言いたいことをきちんと伝えています。人と人とのコミュニケーションは、必要最低限の会話だけではなく、雑談や他愛ない話もあってこそ気持ちが通い、相手に対して心を開けるようになるのではないでしょうか。日本で長く親しまれている落語にも、そのようなコミュニケーションのヒントがありそうです。

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