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(情報掲載日:2014年11月10日)

いまを勝ち抜く人間力

いま、親孝行のあり方を見直す

VOL.34

親孝行をしたい気持ちはあってもチャンスが少ないという人のために、遠く離れて暮らしていても、心と心をつなぐ親孝行によって、親の生活も自分の生活も豊かにする方法についてご紹介します。

親孝行の起源と変遷

●親孝行の起源とは

親孝行は、人間ならだれでも持っている自然な感情に基づく行為のように思われるかもしれませんが、実は東洋思想に特有の倫理観であり、その起源は古代中国にさかのぼります。『常用字釈』(白川静著)によると、もともと「孝」の字は「老」の上の部分と「子」を組み合わせた形であると解釈され、子どもが老人によく仕えることを意味します。ちなみに「老」の上の部分は長髪の老人を横から見た形に由来しています。孔子に始まる儒家は「孝」を基本の徳目として最も重んじ、「孝は百行の本(もと)」、すなわち孝行は全ての善行の根本であるとされました。孔子以前、紀元前1024年に建国された周王朝時代の青銅器の銘文では、「孝」は親のみならず代々の祖先に仕え、祖先をまつるという意味に使われることが多かったそうです。


●モーセの十戒にも「父母を敬え」

個人主義が発達している西洋では、親に対する「愛」はあっても、「孝行」という考え方はなじまないようです。英語では”piety”が「孝行」に近い訳語として使われますが、これはもともと「神への愛」や「信心」を表す言葉です。
ただ、西洋でも個人主義が芽生える以前には「孝」に近い考え方があり、キリスト教の聖典である旧約聖書のモーセの十戒の中には「あなたの父母を敬え」という戒律が含まれています。また、同じ旧約聖書の中にはキリストの遠い祖先に当たるとされるルツという女性の親孝行のエピソードが描かれています。ルツは夫を亡くした後も姑に従ってその故郷へ移り住み、落ち穂拾いまでして姑と2人の貧しい暮らしを支えました。その献身ぶりを見初めた男性に求婚されて再婚して子をなし、やがてその子孫が歴代のイスラエルの王となったと説明されています。


●主君への忠義よりも親孝行を優先した中江藤樹

近世から近代にかけての日本においては、主君を重んじる忠義のほうが親を重んじる孝行よりも優先され、主君をよりも親を優先する人は少数派でした。その少数派の1人が「近江聖人」と呼ばれた江戸時代の儒学者・中江藤樹です。藤樹は15歳のときに祖父より家督100石を相続した武士でしたが、祖父母と父を亡くした後、残された母のことを心から心配して27歳で藩に辞職を願い出ました。しかし辞職は受け入れられなかったため、やむを得ず藤樹は脱藩し、身の安全を図るためにしばらく京都に潜伏した後近江に帰郷して、酒などを売りながら母を養ったそうです。


●福沢諭吉は古めかしい親孝行を批判した

文明開化の時代になり、西洋から個人主義の思想が入ってきてからは、親孝行についての考え方にも影響が現れてきました。「天は人の上に人を作らず」と説いた福沢諭吉は、自分を犠牲にして親への孝行を尽くす人々の逸話が描かれた中国由来の『二十四孝』を批判し、「普通の人にはとても真似できないことを勧めても無意味である。親と子の上下関係を絶対化するために、子どもの義務を説いている無茶な話だ」という意味のことを『学問のすゝめ』の中で書いています。この『二十四孝』は日本に古くから伝来し、仏閣等の建築物に人物画が描かれたり寺子屋の教材に使われたりしましたが、後に落語の演目になり、これほどの親孝行は常人には成しがたいこととして茶化されています。


●別居が当たり前の現代社会では親孝行が難しくなってきた

核家族化が進み、また、子どもが家を継ぐという考え方が薄れてきている昨今では、年老いた親と成人した子どもが別居するのはごく当たり前になり、親孝行をしたくてもなかなかできないようになってきています。平成22年国勢調査によると、総人口に占める親との同居・非同居別の割合で、親と「同居している」は総人口の35.7%となり、平成7年の42.5%から低下し続けています (※1)。

親との同居・非同居の割合の推移(平成7年〜22年) 単位:%
親との同居・非同居の割合の推移(平成7年〜22年)
総務省統計局 平成22年国勢調査をもとに作成(※1)

※1 総務省統計局 平成22年国勢調査 X親子の同居・非同居
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/kihon3/pdf/gaiyou.pdf

現代版の親孝行とは

●現代では子が自立して心配をかけないことが親孝行に

成人してからも親と同居する人が少なくなる中で、現代ではむしろ親に経済的に依存する人は「パラサイト」であるとして批判され、自立して親に心配をかけずに元気で生きることこそが親孝行であるという考え方が見られるようになってきました。
生命保険会社が行ったアンケート調査(※2)によると、「あなたにとっての親孝行は何ですか」という質問に対する回答の1位は「心配させない」で19.6%、2位は「元気でいる」で18.6%という結果でした。さらに3位「会う」13.7%、4位「長生きする」12.9%と続き、「同居する」(4.3%)は7位、「面倒をみる」(4.2%)は9位でした。


●30歳を過ぎるころから親のことが気になり始める

自分が30代、40代となり、仕事や生活が安定してくれば、親のことを考える精神的な余裕ができてくるのではないでしょうか。また、その頃になると同世代の知人で親を亡くす人が増え、自分の親もいつかは死ぬということを強く意識するようになってきます。
親孝行情報提供サイト「オヤノコト.net」が35歳から59歳の男女に対して親の健康や安全について質問をしたところ、79.4%が不安を抱いていると回答しているにもかかわらず、具体的な対策をとっているのは6人に1人という結果でした(※3)。親のことは心配でも、実際に何をしてあげたらいいのか分からないという人が大半のようです。


●介護や認知症は予防できる

誰もが年老いていけば要介護状態になったり、認知症を患う可能性があります。ひとたび要介護状態になれば元の状態に戻るのは難しく、認知症は進行を遅らせることはできても、現代の医学では治すことができません。しかし、親の健康管理をしっかり行っていけば要介護状態となることや認知症の発症を防ぐことは不可能ではないようです。
この場合の「健康」には身体の健康はもちろん、地域活動への参加で孤立を防ぐといった社会的な健康や、家計の収支バランスなどの経済的な健康、そして生きがいや生きる意味につながる精神面での健康も含まれます。人間は社会的な動物であり、誰かに何らかの役割を期待されたり、期待に応えて認められたりする機会を失うと、生きる意味を感じられなくなり、ストレスがたまり、うつ病や認知症になりやすくなると言われています。


●自分と親のQOLをともに高めていく

親が仕事を辞めても、地域社会に参加して何らかの役割を果たしたり、趣味に生きがいを見出しながら、QOL (Quality Of Life)を高めていくことが、要介護状態になることや認知症を予防するのに効果的だと言われています。たとえば、家に籠もらずに外出することによって脚力などの運動機能が保たれ、映画や芝居などの芸術に触れて感動がもたらされることにより脳が活性化されます。地域活動で他の人たちの役に立てるという達成感が得られれば、生きがいの向上につながるでしょう。また、現役時代の知識やスキルを活かして、ボランティア活動や翻訳や講師業といった仕事を続ける人がいます。知識やスキルは使い続けることにより、維持することができるようです。
親が充実した日々を送っていれば、離れて暮らす子どもも安心でき、子どもが将来への不安なく暮らしている様子を見れば親も安心します。自分と親の両方のQOLを高めていくことが、現代版の親孝行と言えそうです。逆に、親が要介護状態になれば、物心両面で子どもは支援していかねばならず、場合によっては介護離職をせざるを得なくなったり、介護疲れから体調を崩したりと、親も子もともにQOLを低下させるリスクがあります。

※2 住友生命保険相互会社「スミセイ 親孝行アンケート」
http://www.sumitomolife.co.jp/news/120807.pdf

※3 オヤノコト.net
http://www.oyanokoto.net/s/about

老いの不安を和らげるために

●コミュニケーションの機会を増やして聞き役に徹する

親と子がそれぞれに充実した暮らしを送っていることを確認しあえれば、離れて暮らしていても安心できます。現代版親孝行の第1歩は、コミュニケーションの機会を増やすことであると言えます。可能な限り定期的に親元に顔を出したり、電話をかけてじっくり話を聞く時間をつくることが望ましいでしょう。
いま、親が何を望んでいるのか、何を不安だと思っているのかについて、しっかり聞いて受けとめることが大切です。このとき、自分の感情や価値観は抑え、親の価値観に歩み寄り、自分のことのように共感しようとする感性と傾聴能力が求められます。
定期的に親と会うことが難しい場合には、季節の変わり目に「寒くなってきたけれども大丈夫?」というように、親の健康状態に配慮してコンタクトをとるといいでしょう。また、季節の変化を感じられるような旬の果物などを持参し、一緒に食べながら会話を楽しむひとときが持てれば最高でしょう。


●子どもの「人生の師」となることで親は安心できる

親とこまめにコミュニケーションを取って聞くスキルを上達させていけば、子どもの頃の自分について、いままで知らなかったエピソードや、親があえて語らなかった苦労話を聞き出すことができるようになります。自分自身のルーツを知ることによって、新たな気づきや自覚が生まれ、また、子育ての知恵や人付き合いをしていくうえでの心得などを人生の先輩から学ぶこともできます。年老いた親と子がコミュニケーションを深めていけば、親の健康長寿につながるだけでなく、子ども世代が親から豊かな人間力を引き継いで「親力」を高めていくことで、孫の世代の幸せにつながっていくと考えられます。
エリクソンの心理社会的発達理論によると、人間は各世代に達成すべき発達課題をもっています。老年期の発達課題は「統合性」であり、今までの自分の仕事や生活を総合的に振り返ってみて、自分の人生を肯定的に受け入れ、統合しようとします。
親は人生の最後の時期に、自分が成し遂げてきたことや思いを子どもに伝え、それが継承されることによって、自分の人生の意義を改めて感じることができます。親は子どもの人生の師となることで、人として成熟を遂げたことに喜びや誇りを感じることができるでしょう。


●IT機器を上手に活用する

親孝行には直に親と会って話すのが一番いい方法ではありますが、それが難しければ、スマートフォンなどを使って会話のほか写真や文章でもコミュニケーションを活用したいものです。高齢者はIT機器を使い慣れていない場合もあるかもしれませんが、写真や動画で孫の日々の様子が見られるといったメリットを説明すれば、習得が早いかもしれません。また、「こんなときはどうするの?」といった親の質問に答えて教えるプロセスがコミュニケーションを深めることにつながります。ここでも親の気持ちになって考える共感能力が大切です。
また、ロボット掃除機や全自動食洗機などの高機能家電をプレゼントすれば、体力の衰えた親の家事負担を軽減することはもちろん、使いこなし方を伝授したり、「うまく使えている?」などと様子を尋ねることによって、親の生活ぶりがよくわかります。共通の話題を増やすことによって、日々の生活の楽しさを共有し、ささやかな幸せを実感できるでしょう。
また、音楽や映画などのデジタル・コンテンツをプレゼントして同じ作品を味わえば、離れていても感想を交換しながらコミュニケーションを深めることができます。対戦ゲームのやり方を教えて、孫の遊び相手になってもらうのもいいでしょう。

現代版親孝行は、親の健康長寿と日々の生活の安心・安全とささやかな幸せを保つために、心と心の絆を強めていくことだと言えそうです。たとえ遠く離れて住んでいても、IT機器を活用すれば、親とのコミュニケーションの機会を増やすことができ、すぐ間近にいて話を交わしているかのような親近感を味わうことができます。人生の先輩である親との深いやりとりを通じて、子どもは自分の将来への備えができ、安心して日々の生活を楽しみ、人生の後半生を充実して生きることができるようになるかもしれません。現代版親孝行は、昔のように子どもが義務感にかられて自分の生活を犠牲にしてまでするものではなく、親も子もともに幸せに生きるための人生の知恵として進化しているようです。

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