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(情報掲載日:2020年3月10日)


学びを仕事で活かせない「やりっぱなし研修」がいまだになくなりません。やりっぱなしになる大きな原因は、研修の前後における「学びの受け入れ作業」が十分に行えていないことにあります。研修までに企画側がどんな準備をし、受講者は学びをどのように実践に活かし、その過程をどうチェックしていくのか。「やりっぱなし研修」から脱却する方法について学びます。

●人は学びを仕事に活かせず、内容はすぐに忘れてしまう

研修とは「学問・技能などをみがき修得すること。特に、職務に対する理解を深め、習熟するために学習すること」(大辞林)です。このとおり、研修の目的は「物事を教わること」ではありません。受講者は「なぜ学ぶのか」を理解しながら学び、学んだ内容を習熟することで自らに変化を起こすことが目的となります。

しかし、現実には研修の学びが仕事にあまり活かされていないというデータが出ています。カナダの企業258社で行われた研究調査(Hugues & Grant 2007)によれば、研修を受けた直後に「学んだ内容を職場で実践する」と考えている人は従業員の47%しかおらず、それが半年後には12%、1年後には9%まで減っていました。これは研修で学んだ内容がその1割程度しか実践しようと試みられていないことになります。時間外労働の上限が規制されるといった時短の流れの中で、時間をかけて学んだことが仕事に活かされないのは、非常にもったいないことだといえます。

また、人の忘れやすさも研修の障害です。ドイツの心理学者エビングハウス氏が、意味を持たない3つのアルファベットの羅列を人に覚えさせたところ、1時間後に56%、1日後に77%、1ヵ月後に79%を忘れてしまったというデータが出ています。人は1日経過しただけで覚えたことの8割近くを忘れてしまいます。その意味ではリマインド(思い出させる)の作業も必要になります。

●研修を仕事に活かすときに障害となるものとは

人材開発に詳しい立教大学教授の中原淳氏は、研修を仕事に活かすときに障害となるものとして、Phillips and Phillips 2002の研究内容を紹介しています。それによると、学びと仕事との相関といった研修の内容だけでなく、当事者の職場や上司といった研修外部の要素が大きく関わってくることがわかります。本人および職場、そして研修の企画側が一つになって、研修内容を本気で実践に活かそうと考えて臨まなければ、学びはなかなか仕事に結びつかないのです。

研修を仕事に活かすときに障害となるもの

・直属上司が研修をそもそも支持していない
・職場の雰囲気が研修の意義を認めていない
・学んだことを試す機会・時間がない
・学んだスキルが、そもそも仕事に当てはまっていない
・業務システム・プロセスが学んだことに合致していない
・業務の変化により、学んだことがもはや当てはまらない
・今の職場にスキルが適切ではない
・学んだことを試してみる必要性がない
・古い習慣を変えることができない
・報酬システムが新たなスキルに合っていない

(Phillips and Phillips 2002、中原淳『研修開発入門---会社で「教える」、競争優位を「つくる」』ダイヤモンド社を参考に作成)

●研修の前後が成否を分ける

研修を仕事に活かしやすくするために必要な要素として、中原氏は先行研究から以下の要素を挙げています。研修は、内容もさることながら、研修に入る前と後でいかに仕事との連動を図れるかが重要だといえます。

研修を仕事に活かしやすくするために必要な要素

・研修内容を仕事に近いものにする
・研修内容を実践することに関して、上司からのサポートと指示がある
・研修から帰った直後に、ただちに学んだことを実践する機会が得られる
・学んだことを実践しているかについて追跡・評価する

(中原淳『研修開発入門---会社で「教える」、競争優位を「つくる」』ダイヤモンド社を参考に作成)

●研修を活かす学びのサイクルをつくる

そのため研修を仕事に活かすには、研修の前後を含めた学びのサイクルをつくることが重要です。研修前には上司に事前に研修内容を伝えておき、仕事との関連性を意識しながら研修を受講。研修後には何を学んだのかを上司に報告して、すぐに学びを実践で活用。実践後も振り返りを行い、再び学びにつなげていきます。

研修を活かす学びのサイクル


実践後の振り返りでは、経験学習のサイクルの活用が有効です。経験学習に詳しい北海道大学大学院教授の松尾睦氏は次のような経験学習のサイクルを紹介しています。

経験学習のサイクル

具体的経験 → 内省(振り返り)→ 概念化(他の場面でも応用できるように教訓化)→ 積極的実践


具体的経験の後に、どんな気づきがあったかに着目して振り返りを行い、その中から他の場面でも応用できるものを教訓化。それを新たな場面で実際に試していきます。こうした経験学習のサイクルの活用で、研修での学びの姿勢を継続させることができます。

●研修後の逆戻りを防ぐには

研修後によくある失敗は、一度は行動を変えても、いつの間にか元に戻ってしまう「逆戻り」です。これを防ぐには逆戻りは非常に起こりやすい現象であると自覚し、事前に対策を立てることが必要です。例えば、研修での場面と仕事の場面の違いを把握し、学んだ内容がどのような場面であれば使えるのかを考えておきます。また、自分以外の人の目を利用することも有効です。上司や同僚に自分の行動が逆戻りをしていないかを確認してもらう機会を設けましょう。

●研修企画側は受講者の上司を巻き込むことに注力

よりよい研修にするには、人事など研修を企画運営する部署が受講者の上司を巻き込み、受講者に十分なアフターフォローを行うことが求められます。企画側は上司に対し、部下に学ばせたい内容を事前にヒアリングしたり、部下への声かけを依頼するなど、早期に上司を研修に巻き込むことが重要です。フォローではリマインドメールを送ったり、受講者の横のつながりを組織化することが有効です。ある企業では、事前に人事が受講者の上司と1on1の面談を行い、研修内容を伝えるようにしたところ、上司の協力が得られるようになり、仕事での実践、効果アップが図れています。

よりよい研修にするために企画側が実践すべきこと

・部下にどんな行動を定着させたいかといった上司への事前ヒアリング
・研修前の部下に対し、「期待していること」を伝える上司からの声かけ
・研修後、「学んだ行動が実践できているか」を確認する上司からの定期的な声かけ
・研修後のリマインドメールといった研修フォロー
・研修ごとに同窓会をつくるなど、受講者の横のつながりを持つことによる効果アップ



●意欲的に新たな分野への挑戦を行っていく

研修は新たな気付きを得ることも重要なテーマですが、これまでにない研修内容を企画して、気づきの種類を増やし、経験学習のサイクルで活用している企業もあります。例えばあるIT企業では著名なフランス料理店に食事に行く、歌舞伎を見に行くといった内容を研修に取り入れています。一流の仕事や文化に実際に触れて、なぜそのような評価を受けるのかといった気付きを得ることで、そうした観点を仕事に活かせるようになります。

また、研修の工程を新たな人材開発に利用しようという動きもあります。例えば、研修での個人の振り返りの言葉を蓄積していき、テキストマイニングで傾向をみる試みがあります。テキストマイニングとは、文章データから特徴的な言葉の出現の頻度や相関、傾向などを解析することで有用な情報を取り出す分析手法です。リーダーの素質を持っている人、企業を離れず定着している人は、研修でどんな発言をしていたのか。こうした言葉をAIで分析することも今後は可能となっていくはずです。

企業における研修は、もっとも実践を意識した学びになるはずですが、現実には教え・教わってそこで終わりとしてしまう場合が多いようです。こうした「やりっぱなし研修」から脱却するには、企業も受講者も研修を起点とし、そこでの行動変化を能力開発や仕事の成果に必ずつなげる、という強い思いと実践が必要になります。そうして本来の研修の姿を取り戻すことが、企業としての強さにつながっていきます。

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