(情報掲載日:2018年3月12日)


戦いの原理や原則、戦略・戦術について書かれた孫子の兵法。その教えはビジネスにおける戦略書として多くの経営者が参考にしています。また、人間社会を生き抜く指針として現代人にも多く読まれています。「戦わずして勝つ」「いかに負けないかを考える」「勢いを活かす」など、ビジネス場面でも参考になる負けない技術について解説します。

●孫子の兵法とは

孫子の兵法は2500年前、軍事思想家の孫武が説いたとされる兵法書です。戦争に勝つための方策を理論化し、不要な戦いは避け、勝算がないときは戦わないといった原則を守りながら、いかに勝ちにつなげるかについて書かれています。古くは諸葛孔明、武田信玄、ナポレオンも戦いの参考にしたといわれています。全体は以下のように13篇から構成され、各々の篇が独立した内容となっています。文字数は全篇で6,000字ほど、訳文も長いものではないので、短い時間で読むことができます。ただ、その内容は深く、何度も読み返してしまう内容です。


孫子の兵法の13篇



●なぜ経営者やビジネスパーソンに読まれるのか

孫子の兵法は、今も広く経営者やビジネスパーソンに読まれています。その背景にあるのは激しさが増す競争環境です。企業も個人も厳しい競争にさらされており、常に時代に適応することが求められ、場面ごとにいかに勝ち残るかといった決断を迫られています。孫子の兵法に書かれているのは、戦い方における普遍の真理であり、読み手の置かれている状況によって柔軟に解釈することができます。そして、その戦い方の前提にあるものは「戦わずして勝つ」「勝算なきは戦わず」といった徹底した合理主義であり、いかに効率よく戦いを進めるかといった点を重視しているところも、現代人に通じる内容といえます。

●戦わずして勝つことが最善の策

孫子の兵法の大きな特徴の一つは、戦略書でありながら、勝つことより「いかに負けないか」について着目した点といえます。負けない準備は自分だけで事前にできますが、勝つことは敵の出方次第です。だからこそ、まずは負けない準備が重要になります。ビジネスにおける負けない準備とは、戦いにしないための方策すべてが含まれます。リスク分析や相手との交渉で戦いを避けることもあれば、こちらが最初に攻勢を掛けて相手に敵わないと思わせる手法もあるでしょう。誰も進出していない分野に乗り出すブルーオーシャン戦略も一つの不戦の形といえます。

百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。
百回戦って百回勝利を得ることは最高に優れた者ではない。戦わずして敵の兵を屈服させることが最高に優れた者である。<謀攻篇>

企業競争で相手に勝ったとしても、それで自社の損害は少なくなりますが戦いには投資しており、いくらかの痛手を負うことになります。長い目でみて本当に戦ったほうがよいのかを考えるべきです。孫子は「いかに戦わずして勝つか」を考えることを奨めており、事前の状況分析が重要だと述べています。独自路線を確立する体制をつくるための状況分析など、相手との差別化を考えた戦略は有効です。

これを経(はか)るに五事をもってし、これを校(くら)ぶるに計をもってして、その情を索(もと)む。
(国の存亡がかかる大事なことであるから)五つの事項をもとに考え、(七つの)計略について比べ、自国と敵国の実情を把握しなければならない。<計篇>

孫子では最上級の戦い方は「敵の陰謀を陰謀のうちに破る(上兵は謀を伐つ)」こと、次は「外交戦略で決着をつける(交を伐つ)」ことだと述べています。このような戦いをするには、自らが圧倒的な強さをもち、情報戦で勝つことが求められます。そこで戦力分析を行う際の指針となるのが「五事七計」です。「五事」は戦争時に戦力を検討する際の項目、「七計」は戦地で勝敗を決する要因のことです。ビジネスにおいても冷静に自社の戦力を分析できなければ、戦いに勝つことはできません。

孫子の兵法における五事


孫子の兵法における七計


●勝つことより「負けないこと」を考える

昔の善く戦う者は、先ず勝つべからざるをなして、もって敵の勝つべきを待つ。勝つべからざるはおのれに在るも、勝つべきは敵に在り。
昔の戦い上手な者は、まずしっかり守り、負けない態勢を整えた上で、敵が弱点を現して、誰もがうち勝てる態勢になるのを待った。誰にも負けない態勢を整えるのは味方のことだが、誰もが勝てる態勢とは敵側のことである。<形篇>

戦いにおいて大事なことは、自軍でコントロールができる「守り」を完璧に行うべきと孫子は述べています。敵に勝とうとしても、敵の動きそのものはコントロールできません。ビジネスにおいても、景気やライバルに左右されない独自の構造を作っておくなど、守りを固めることが勝利への近道となります。

善く守る者は九地の下に蔵(かく)れ、善く攻むる者は九天の上に動く。 故に能く自ら保ちて勝を全うするなり。
守りがうまい者は守備を固めるだけでなく、攻めに回ったときはすかさず攻めて、敵に守る猶予を与えない。だからこそ、自軍は損害なしに完全勝利を収めることができる。<形篇>

守りが強ければ、そのことが戦力的な余裕にもつながります。まさに「防御こそが最大の攻撃」ということです。ビジネスで例えれば、企業の独自路線を堅持していくことが、新たな事業へ進出する余裕につながるということです。

●勢いを味方につける

孫子の兵法では、勢いの大切さについていくつも記述があります。戦い方の上手なリーダーであるほど、勝つために勢いに乗ることを重視します。ここで大切なのは勢いの中にあっても、リーダーは常に冷静であることです。勢いに乗りながら、冷静に戦いの主導権を握ることで、敵を圧倒し一気に勝負をつけることができます。


善く戦う者は、これを勢に求めて人に責(もと)めず。故に能く人を択(えら)びて勢に任ず。勢に任ずる者は、其の人を戦わしむるや木石を転ずるが如し。
戦い上手な者は、勢いによって勝利を得ようとし、個々の力に頼ろうとしない。だから、上手く人を選び、勢いのままに従わせることができる。その様子は木や石が転がるようなものだ。<勢篇>

孫子は、軍の力や兵士の気力を奪う長期戦は絶対に避けるべきだと述べています。そして戦いでは主導権を握ることが重要であり、そこでは軍の「勢い」がポイントとなります。ビジネスの現場においても「勢い」は重要であり、「勢い」を得られるようにするにはスピード感が問われることになります。

その疾(はや)きこと風の如く、その徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如く、知りがたきこと陰の如く、動くこと雷霆(らいてい)の如し。
(軍隊は)風のように迅速に移動し、林のように息をひそめて待機し、攻撃では火が燃えるように侵奪し、陣容は山のようにどっしりと落ち着き、暗やみのように分かりにくくし、雷鳴のように激しく動く。<軍争篇>

武田信玄はこの言葉を気に入り、軍旗に「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」と書いていました。ここに書いてあるのは、戦いにおいてどのように動けば、相手を出し抜き、自軍に有利になるのかということです。ビジネスでいえば、「意思決定は迅速に行い」「ときに臨機応変な対応を取り」「勝負時には一気に動き」「大局観を持って戦況を見つめ」「重要な情報は決してもらさず」「指揮は大胆に行う」といった意味合いになります。

●部下を必死にさせ、敵の隙を突く

将に五危あり。必死は殺され、必生は虜にされ、忿速(ふんそく)は侮られ、廉潔は辱しめられ、愛民は煩わさる。
将たる者が行うべきでない危険な行為が五つある。「決死の覚悟は盲目的となり殺される」「生きることばかりを考えると捕虜にされる」「気が短いのは侮られる」「潔癖であると辱められる」「兵士を愛しすぎれば悩まされる」。<九変篇>

孫子は一軍の将は「必死」になってはいけないと説いています。その理由は、将はどんな事態になっても冷静さを失ってはならず、部下を必死にさせることに集中しなければならないからです。

敵 衆整にして将に来たらんとす。これを待つこといかん。曰わく、まずその愛する所を奪わば、即ち聴かん。兵の情は速やかなるを主とす。人の及ばざるに乗じ、虞(はか)らざるの道に由り、その戒めざる所を攻むるなり。
敵が万全の態勢で攻めてきたらどう対処すればよいか。その場合は、相手に先んじて、敵が最も大切にする所を奪えば、思いのままに相手を操れるだろう。作戦は何よりも迅速に行うことが肝要だ。敵の隙に乗じて、敵が予想しない道を通り、敵が警戒していない場所を攻めることが大切だ。<九地篇>

敵の攻撃で自軍が劣勢に立ったようなときでも、敵にも必ず弱点があります。そこに兵力を集中させることで打開策を見つけることが可能です。ビジネスにおいても、相手が狙っているターゲットを素早く察知し、行動に移すといったやり方は効果があります。そして作戦は迅速であればあるほど成功しやすく、また正攻法よりも相手の予期しないところを攻める作戦が効果的であると孫子は述べています。

孫子の兵法は時代を超えて読み継がれており、そこに書かれた戦略が2500年を経た今も普遍の真理であるのは驚くべきことです。戦いの基本は昔から変わらず、同じ要件、同じ環境の中で繰り返し行われてきた証しといえます。孫子の兵法は人々が実感している世の中の戦いの構造を明文化したものであり、その教えを日々現実の問題にあてはめていくことが真の学びへとつながっていきます。

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