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(情報掲載日:2014年10月10日)

人材マネジメントライブラリ

過労死防止法の目的と企業に求められる予防強化

VOL.33

過労死防止法が2014年6月20日に成立しました。過労死という言葉が初めて書き込まれた法律であり、企業は国や地方公共団体と密接な連携のもとで過労死防止のための対策を行わなければならないとしています。法律の目的と成立の背景、過労死の現状と、今後さらに企業に求められる予防強化策についてご紹介します。

過労死防止法が成立した背景

●法律に明記された過労死の定義とは

第186回国会において成立した過労死等防止対策推進法(以下、過労死防止法)は、過労死という言葉が初めて書き込まれた法律であり、過労死を「遺族のみならず社会にとっても大きな損失」と位置づけ、過労死防止策の実施を国の責務であると定めたことで注目されています。法律には過労死防止のための調査研究、啓発、相談体制の整備、民間団体の活動支援などが盛り込まれており、これまで実施されてこなかった過労死の総合的な調査研究を国の責任で行うように定められています。同法第2条による過労死の定義は下記のとおりであり、いわゆる過労自殺も含まれています。

1) 業務における過剰な負荷による脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡
2) 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡

過労死等防止対策推進法をもとに作成(※1)

正式な法律名である「過労死等防止対策推進法」の「等」には、過労死を招きかねない脳血管疾患、心臓疾患、精神障害を含みます。過労死のみならず両疾患及び精神障害の防止のための対策を推進することにより、「過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与すること」(同法第1条)がこの法律の目的となっています(※1)。

●遺族らの署名運動を受け議員立法で成立

過労死という言葉は1970年代から使われはじめ、1988年6月に、「過労死110番」全国ネットワークが電話による全国一斉相談を始めたことが契機になって、過労死・過労自殺の言葉がひろく日本社会に使用されるようになりました。また、過労死問題に取り組む弁護士や遺族による過労死防止基本法制定実行委員会が結成され、2011年から過労死防止の法整備を求める署名運動 (※2)が開始されました。ついに2013年に党派を超えた国会議員連盟が発足し、2014年6月に議員立法で法律が成立しました。


●国連が日本政府に対して過労死防止対策の強化を勧告した

欧米でも日本の過労死について報道され、2002年には「karoshi」がオックスフォード英語辞典に掲載されるなど、過労死は日本の厳しい労働環境を象徴的に示す社会問題として知られるようになりました。今回、過労死防止法が成立した背景には、長時間労働や過労死の実態が改善されないことに対する国際的な批判の高まりもあると考えられます。世界人権宣言に基づく多国間条約「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)」について、各国の履行状況を審査する国連機関である社会権規約委員会は日本政府に対し、「過労死および職場における精神的なハラスメントによる自殺が発生し続けていることを懸念する」と伝え、長時間労働を防止する措置の強化やあらゆる形態のハラスメントを禁止、防止することを目的とした法規制を講じるように求める勧告を2013年5月に出しました(※3)。
社会権規約は1976年に発効し、日本を含む約160ヶ国の締約国が守るべき条項として「労働時間の合理的な制限」「安全かつ健康的な作業条件」などが定められています。
勧告には法的拘束力はありませんが、対策の実施状況について定期的な報告を求められます。


●精神障害の労災申請が過去最多を更新

過労死および過労自殺の現状は、2002年から厚生労働省が年1回とりまとめて発表している「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」から知ることができますが、その数は氷山の一角に過ぎないようです。労災申請しようにも過労死と業務との因果関係を客観的に示すことが容易ではないため、申請を見送る人が少なくないと言われています。
直近の2013年度の統計(※4)によると、脳・心臓疾患の労災請求件数は784件で、前年の842件に比べてやや減少しています。そのうち死亡事例は283件であり、支給決定に至ったのは133件でした(決定率45.9%)。
一方、精神障害の労災請求件数は1,409件にのぼり、過去最多を更新しました。うち未遂を含む自殺は177件であり、支給決定に至ったのは63件でした(決定率40.1%)。とくに精神障害の労災請求件数が増えている理由として、仕事上のストレスにより医療機関でうつ病と診断される人が増えており、うつ病などを労災申請できるとの意識が浸透してきたことが挙げられています。

※1 過労死等防止対策法の条文
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000053507.pdf

※2 過労死防止基本法制定実行委員会
http://www.stopkaroshi.net/

※3 国連社会権規約委員会“Principal subjects of concern and recommendations”17
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/pdfs/kenkai_130517_en.pdf

※4 厚生労働省 平成25年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000049293.html

過労死の原因

●脳・心臓疾患による過労死等の労災認定基準とは

過労死の詳しい原因については、今後、過労死防止法の定めるところによる調査・研究の結果を待たねばなりませんが、現状では過労死およびその原因となる脳・心臓疾患もしくは精神障害に対する労災認定基準があり、業務上の過労死等かそうでないかの原因を特定する基準が示されています。脳・心臓疾患による過労死等の労災認定基準は下表のとおりです。直近の2013年度の統計(※4)によると、過労死として労災補償の支給決定がされた133件のうち、脳血管疾患が43件、虚血性心疾患等が90件となっています。

<脳・心臓疾患の労災認定基準>
<脳・心臓疾患の労災認定基準>
厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定」(※5)をもとに作成

●精神障害による過労自殺等の労災認定基準とは

他方、精神障害の労災認定基準は下記のとおりとなっています。

<精神障害の労災認定基準>
<精神障害の労災認定基準>
厚生労働省「精神障害の労災認定」(※6)をもとに作成

なお、①離婚などの自分の出来事、②自分以外の家族・親族の出来事、③金銭関係、④事件、事故、災害の体験、⑤住環境の変化、⑥他人との人間関係といった業務以外の心理的負荷をもたらす具体的な出来事や個人的要因で発病した場合は、労災認定の対象にはなりません。

●「仕事内容・仕事量の変化」が過労自殺の原因になる場合が多い

直近の2013年度の統計(※4)によると、過労自殺として労災補償の支給決定がされた63件の発症の原因となった具体的な出来事は、多い順に下表のようになっています。

過労自殺の原因となった具体的な出来事について
過労自殺の原因となった具体的な出来事について
厚生労働省 平成25年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」(※4)をもとに作成

※5 厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11.pdf

※6 厚生労働省「精神障害の労災認定」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf

「働き過ぎ」による病気や過労死を防ぐには

●過労死防止法が企業に求めることとは

過労死防止法は過労死防止のための対策を国に義務づけるものであり、企業に対しては「国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策に協力するよう努めるものとする」としています(※1)。具体的な対策については、今後、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が定められることになっており、遺族、労働者代表、使用者代表及び専門的知識を有する人たちから構成される過労死等防止対策推進協議会の意見をもとに策定されます。

●残業時間100時間超の労働者には医師の面接指導が必要

脳・心臓疾患による過労死は、前述のように「発症前1ヶ月におおむね100時間または発症前2ヶ月〜6ヶ月にわたって1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合」は、業務との関連性が高いと評価されます。
ちなみに労働安全衛生法の定めるところによると、1ヶ月の残業時間が100時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が医師による面接指導を受けることを申し出た場合は、企業は実施しなければなりません。また、この面接指導の結果、労働者の健康を保持するために必要な措置について、企業側は医師の意見を聴かなければなりません。医師の意見を勘案して、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じるほか、医師の意見の衛生委員会等への報告その他の適切な措置を講じなければなりません(※7)。

●労働時間を示す書類の整備・保管を行う

社員の残業時間については、直属の上司が管理するだけでなく、人事部門も関与して出勤簿や業務日報といった労働時間を示す書類の整備・保管を厳密に行うことが重要です。これらの書類が過労死の原因となる長時間労働や不規則勤務の存在を労働基準監督署や裁判所が判断する際の材料になるからです。過労死が疑われた場合、もしもこれらの書類に不備があると企業は過労死等の防止の義務を怠ったと見なされる可能性があります。

●定期的にストレスチェックを行う

過労死や過労自殺の原因となる精神的ストレスの予防としては、労働安全衛生法の改正で平成27年12月までに導入が義務づけられる予定のストレスチェックの実施を準備するとよいでしょう。心身に負荷を与える出来事があった場合、人によっては生理的反応(頭痛、腰痛、腹痛、睡眠障害など)、心理的反応(不安感、緊張感、抑うつ状態など)、行動の変化(遅刻・欠勤・早退、動揺しやすくなる、攻撃性が高まるなど)のいずれか、または複数の変化が同時に現れます。これらの急性ストレス反応を早期に発見して、脳血管疾患や心臓疾患をはじめとするストレス性疾患やうつ病などの精神障害の予防や早期治療につなげることがストレスチェックの目的であり、結果について本人の自覚を促すとともに、場合によっては心療内科医や精神科医への受診を求めることが必要になります。

●上司によるラインケアを行う

心身に負荷を与える出来事にはさまざまなものがありますが、それをストレスと感じるか感じないかには個人差があり、実際にストレスを感じているかどうかは見た目では分かりません。1対1の面接で本人がどのように思い、感じているかについて聴き取ることが必要でしょう。
上司は、業務の量と内容が本人の能力を超えていないかどうかを客観的に判断するとともに、部下の話をよく聴き、1人で必要以上の仕事を抱え込んでいないか、仕事の進め方に問題がないか、本人はどのように感じているかについて、明確化したうえで、本人とともに解決策を見出していくことが求められます。

※7 厚生労働省 改正労働安全衛生法(平成18年4月1日施行)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/060401.html

過労死・過労自殺が労働災害として認定され、企業に多額の損害賠償の支払いを命じる判決が相次いでいます。過労死・過労自殺は同僚や上司をはじめ周囲の人々が受ける心理的ダメージが非常に大きく、さらには企業イメージの悪化や、賠償金以上の経済的損失をもたらす可能性もあり、回復するまでには長い時間がかかるでしょう。過労死はどの職場でも起こりえる問題であると認識して、法規制を先取りする自主的な基準を定め、過労死防止対策に取り組むことが、よりいっそう強く求められることになりそうです。

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