メールマガジンの定期配信をご希望のお客さまは以下のボタンからお申込みください。

配信申込⁄停止

(情報掲載日:2014年1月20日)

人材マネジメントライブラリ

配転・出向・転籍のルールとは

VOL.25


配転・出向・転籍は、企業が従業員に対し自由に命じることができるように思われますが、対象者の選び方の合理性やプロセスに問題がある場合は、「人事権の濫用」と見なされることがあります。人事異動で注意すべきことについて要点をまとめました。

人事異動を行うために配慮すべき点とは

●配転・出向・転籍の目的

配転・出向・転籍といった人事異動には2つの目的があると一般的には考えられています。第1は多くの職場、業務を経験させることによる人材育成であり、これは戦略的人事異動、あるいはジョブローテーションとも呼ばれます。第2はいわゆる解雇回避努力の手段として行われるもので、解雇をせずに雇用を維持するために行われるものです。
人材育成、解雇回避のどちらも労使双方にメリットがあるように見えますが、働く人にとっては人事異動による不利益が大きいと感じられる場合もあり、労使間の紛争につながるリスクがあります。人事異動命令の行使のしかたによっては、適法でないと見なされることがあるため、注意が必要です。

●配転・出向・転籍の一般的な定義と法規制

企業が人事異動を適法に行うためには、2つの着眼点があります。第1に労働契約上の根拠があること、第2は権利濫用にならないようにすることです。一般に人事異動と呼ばれるものの中には、配転、出向、転籍の違いがあり、労働契約法および民法の規制を受けます。

配転・出向・転籍の一般的な定義と法規制
配転・出向・転籍の一般的な定義と法規制

●配転を行うには

配転には、「東京から名古屋への転勤」といった「転勤」も含まれます。まず、配転を適法に行うには、就業規則などを通じて、あらかじめ配転があり得ることが労働契約の内容になっていることを企業が従業員に対して示す必要があります。したがって、「全国転勤を命じることできる」と就業規則上で規定し周知していれば配転は可能です。
ただし、「勤務地限定社員」のように勤務地や職種を限定する契約で、就業規則の内容とは異なる労働条件である場合は、就業規則よりも当該従業員にとって有利な労働条件を定めるものであるので、就業規則よりも優先されます。そのため、この場合は契約している「職種・勤務地」の範囲内でのみ配転を命じることができ、全国転勤を命じることはできません。この根拠となるのが労働契約法第7条であり、条文には以下のように書かれています。

労働契約法第7条

第7条  労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

●出向は「包括的な同意」で良い

出向に関しては、法的には労働者の個別の同意が必要であるとされます。企業が有する労務給付請求権(働くことを求める権利)を第三者に譲渡する場合は、労働者の同意が必要であると定めた項目が民法の中にあります。

民法第625条第1項

使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。

ただし、労働者の同意を得る法的手続きについては、出向に応じるか否かを対象者個人ごとに尋ね、従業員が同意した旨を返答する「個別的な同意」がなくても、「包括的な同意」で良いと解されています。「包括的な同意」とは、例えば出向に関するルールを就業規則に定め、対象となる従業員に周知させている場合などが該当します。
どのようなルールを定めればよいかについて、とくに法的なガイドラインはありませんが、最高裁の判例によると、出向者の利益に配慮することが求められます。具体的には、出向期間や出向中の地位(役職)、出向先での労働条件に関し、出向者の利益に配慮したルールが設けられていれば、企業は従業員の個別的同意なしに出向を命じることができるとされています。

●戦略的人事の出向には3つのタイプがある

出向者の利益に配慮した戦略型人事の出向には、3つのタイプがあります。この場合は、出向する従業員だけでなく、出向先、出向元企業及び従業員の三方の利益に配慮した内容になっています。出向先は全く関係のない会社であることは希で、一般的には子会社やグループ内企業となっています。

戦略的人事として行われる出向の3つのタイプ
戦略的人事として行われる出向の3つのタイプ

●転籍は労働者の「個別的な同意」が必要

一方、転籍は従業員の「個別的な同意」が必要であるとされています。出向に応じるか否かを対象者個人ごとに尋ね、従業員が同意した旨を返答するという手続きが必要です。
なぜなら、転籍の場合は、労働契約の全部が転籍先に移転するため、出向と比べて従業員の身分が大きく変化しますので、「包括的同意」という個別性を抜きにした抽象的な同意によって転籍させるのは従業員にとって不利益が生じる可能性があるからです。
ただ、裁判で「個別的同意なく転籍を命じ得る」と判断された転籍の例もあります。この場合は関連企業・系列会社への転籍であり、労働条件が不利益にはならず、実質的には企業の一部門への配転と同じであるとの事情が考慮されました。

人事異動が人事権の濫用に当たる場合とは

●従業員の家族の養育や介護に配慮する義務がある

上記のような手続きを踏めば、企業は配転および出向の命令を行使できますが、その行使が人事権の濫用に該当すれば、無効になります。どのような場合に権利濫用に当たるかについて労働契約法には書かれていませんが、これまでの裁判例から判例法理が確立しており、次の3つのケースに該当する場合は権利濫用であると見なされます。

配転・出向の命令が権利濫用に該当する場合

(1) 業務上の必要性が存在しない場合
(2)(業務上の必要性があったとしても)不当な動機・目的をもってなされた場合
(3) 労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合

1)の「業務上の必要性」とは、余人をもって代えがたいといった高度の必要性までは求められず、業務の円滑化や従業員の適正配置といった一般的な事情で足りると解されています。2)の「不当な動機・目的」とは、嫌がらせなどが該当します。パワーハラスメントと見なされる場合もあります。では、正当な同機・目的があれば何でも認められるかというとそうではなく、配転・出向させる従業員の選び方の合理性や、選ぶプロセスに透明性がなかった場合は、人事権の濫用で無効とされる判決が出ています。
実際の紛争で問題になることが最も多いケースが3)の「程度を著しく超える不利益」です。その際、異動による従業員の不利益がどの程度かが争点になります。
判例では、配転によって病気の家族の看護や介護ができなくなるような事情がある場合は、従業員の不利益が著しく大きく、配転命令は権利濫用であると判断される場合が多くなっています。とくに家族の身体障がい・知的障がい・精神障がいや要介護の度合いが重い場合などが該当します。
配転で単身赴任を余儀なくされれば従業員の不利益が大きくなるという見方もあり得ますが、この場合は業務上の必要性が十分に認められ、労働者の家庭の事情に対する配慮がなされ、住宅・別居手当の支給や、家庭と勤務地を行き来する旅費の補助などがある場合は有効であると判断される例が多くなっています。
育児介護休業法上、転居を伴う配転の際に企業は従業員の子の養育、家族の介護の状況について配慮する義務が定められています。この配慮の有無が権利濫用か否かの判断においては1つの判断材料になっています。
法律論的に適法な配転であれば全く問題ないかと言えば、必ずしもそうとは限りません。従業員にとって納得性が薄く、キャリア形成上の意味を実感できない配転であった場合は、組織に対するモラルや業務に取り組むモチベーションが低下するリスクがあります。また、配転先と家庭の行き来が心身の負担になったり、配転先の人間関係になじめない場合に心身の不調を来したりするリスクがあります。
このようなリスクを避けるためには、異動命令を出す前に、従業員との間で今後のキャリアについて話し合う場を設けることが望ましいといえます。また、配転後に何か不安があった場合に、いつでも相談できる窓口を開いておくこともメンタルヘルス施策の一環として重要になってきます。

個別のキャリアに配慮した配転が望ましい

●「キャリア権」という考え方が広がってきた

人事権の濫用かそうでないかを判断するもう1つの根拠として、人事異動が個人の「キャリア権」を尊重するものであるか否かが問われるようになってきました。「キャリア権」とは、人は誰でも自ら望む職業キャリアを主体的に開発・形成する権利をもち、企業や社会は個人のキャリア形成を保障・支援すべきであるという法概念です。
この言葉が世の中に出るきっかけとなったのが厚生労働省の「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」が2002年に発表した報告書(※1)にある次のような記述です。ここでは職業キャリアは「個人の財産」であり、それを守る権利が「キャリア権」であるとしています。

職業経験は個人の財産である

労働上の諸問題、とりわけ、激しい環境変化に対応するためには、個人の財産である職業経験による能力の蓄積に着目し、その能力蓄積の展開、すなわち、職業キャリアを保障することが一つの法理(キャリア権)として考えられる。

厚生労働省「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書

また、最近では、国や社会にキャリア権が尊重されるような立法化や施策の推進を働きかけるNPO法人が設立されて注目を集めていますが、そこでは「キャリア権」を次のように定義しています(※2)。

キャリア権の定義

キャリア権(right to career)とは、働く人々が意欲と能力に応じて希望する仕事を選択し、職業生活を通じて幸福を追求する権利

NPO法人キャリア権推進ネットワーク「キャリア権とは」

●キャリア形成をするための人事異動を

出向命令が無効になった最近の判例では、デスクワークから肉体労働の現場への出向命令について、「キャリアや年齢に配慮しておらず、身体的・精神的に負担が大きい命令であるため」という内容が挙げられています。キャリアという言葉が判決文の中に出てきたことが目を引きます。
冒頭にご紹介したとおり、本来、人事異動の目的の中には人材育成が含まれます。したがって、人事異動の際には労働者のキャリアに配慮することが望ましく、著しく業務内容が異なるために経験を生かせず能力発揮が難しいとか、スキルや適性がないために新たな業務への適応が難しいといった結果になるようでは、労働者本人にとって著しい不利益をもたらすとも考えられます。
労働者の自立と1人ひとりの個別性に応じたキャリア形成の支援が重要な課題になっているいま、キャリア形成支援の根拠を法的に明確にするために、キャリア権の考え方が立ち上がってきたと考えられます。現段階では法制化はされていませんが、国の雇用施策の根拠となる概念の1つになっています。企業においては、人事権の行使が労働者のキャリア権を侵害することのないようにきめ細かい配慮を求められるようになってきました。

企業が配転・出向・転籍などの人事異動を行う際には、社内ルールを周知徹底し、労働者に対して違法な対応をすることを防がなければなりません。これを「守り」の側面とすれば、もう片方の「攻め」の側面が、人事異動を通じて人材育成をしていく戦略的人事です。戦略的人事を行うには、労働者1人ひとりのキャリア形成の履歴と将来のキャリアプランの把握とキャリア権への配慮が不可欠です。人事異動というと、従来は企業の意に応じ、受け身の態勢を取る人が少なくありませんでしたが、今後、企業が「人事異動はキャリアアップのチャンスとなり得る」ということを表明し、自己申告制やFA制度なども使って個人のキャリア権に配慮した運用をしていけば、活かそうとする能動的な人が増え、組織全体の活性化につながっていくことも期待できそうです。

※1 厚生労働省「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/07/h0731-3.html

※2  NPO法人キャリア権推進ネットワーク「キャリア権とは」
http://www.career-ken.org/career.html

配信申込⁄停止

“旬”なテーマで人材活用やビジネスに関するお役立ち情報をお届けします。メールマガジンの定期配信をお申込みのお客様は左のボタンからお気軽にどうぞ。

このページのトップへ

人材マネジメントライブラリ 一覧へ