安全性情報管理
(PV・ファーマコヴィジランス)とは、どんな仕事?
安全性情報管理(PV・ファーマコヴィジランス)は、製薬業界の中でも薬の安全性にかかわる極めて重要な業務です。ここでは、医薬品の安全管理の意義、具体的な仕事内容、将来性、どのような方が向いているかについて、お伝えします。
薬のリスクを管理し、副作用から患者を守る
どんな薬にも多かれ少なかれ副作用が生じる可能性があります。投与量や他の薬剤との飲み合わせ、患者さんの既往歴や体質など、多くの要因が影響するため、副作用の現れ方は患者さんによってさまざまです。自覚症状がない場合もあります。どのような場合に副作用が発現する可能性が高いのかを、あらかじめ情報として共有することで、副作用を最小限にとどめ効果は最大にする、いわゆる“医薬品の適正使用”が可能となります。新薬の副作用(安全性)と効果(有効性)については、開発期間中に非臨床試験・臨床試験(治験)を通じて慎重に検討されますが、発売された後、より多くの医療現場で使用されるようになると、治験中には確認されなかった新たな副作用や予期せぬ効果が発見されることがあります。その情報をいち早くキャッチし速やかに世界中で共有するため、製薬企業は、自社の薬の投与結果(特に安全性)に関する情報を日々収集、分析・評価し、必要に応じて当局に報告することが義務付けられています。
薬の開発中から発売後も継続的に行われるこの活動を安全性情報監視(ファーマコヴィジランス)と呼び、WHO(世界保健機構)でも“医薬品の有害な作用または医薬品に関連するその他の問題の検出・評価・理解・予防に関する科学と活動”と定義されています。表題のPVとはPharmacovigilance:ファーマコヴィジランスの略です。
安全性情報管理の具体的な仕事内容
患者さんに薬が投与された後に起きた好ましくない出来事を有害事象と呼びます。患者さんに有害事象が認められた場合、医師や薬剤師から製薬企業やPMDA※に症例報告という形でレポートが送られます。薬との因果関係が分からないものもたくさんあります。そのため、まずは日々入ってくる膨大な有害事象について、必要な情報に抜け漏れはないか、すでに分かっている副作用(既知)か新しく出会う症状(未知)か、緊急を要する深刻な容態かどうか(重篤度)などを確認し、迅速な処理が必要なもの、記録をデータベースに蓄積するだけでよいもの、などの振り分けを行います。
振り分けられた情報は、優先度の高いものや海外とやり取りの必要なものなどから順に、適切な手順で処理されていきます。 一次情報だけでは因果関係が判定しにくいなど、より詳細な情報が必要なものは、報告元の医療機関へさらなる情報提供を依頼しますし、海外からの情報や、海外と共有すべき情報があれば、翻訳も行います。症状の重篤度や、未知の症状か既知の副作用かで当局へ報告するまでの期限も異なるため、症例ごとの作業進捗を確認したり、経過観察中の症例のフォローアップ報告が来ているかどうかといった管理業務もあります。最終的に、薬との因果関係があるかないかを、医学薬学文献やドクターの意見をもとに考察した報告としてまとめ、PMDAに提出します。また、未知の副作用が発見された場合、医薬品の添付文書や患者向けのパンフレットなどを改訂し、同じような副作用を防止します。
医療現場から提供される症例報告の他、科学誌に発表される論文や学会での発表などさまざまな情報源から自社の薬剤に関する有害事象の情報が出るため、そういった情報源も日々収集し、医学的科学的観点から評価を行います。個別の症例報告の他、国内外で集積された情報を定期報告という形の報告書にまとめます。以上のことから、実際の業務は基本的にパソコンを使用したデスクワークです。日常的に英語を目にしますが、翻訳についてはプロの翻訳家に外注するケースも多いです。
求められるスキルや適性
扱う情報の特性上、医学薬学知識が必要ですが、医薬系の専攻や資格をお持ちでない方でも、データ入力といった作業ベースから入って知識を積み、プロフェッショナルとして活躍されている方が多数いらっしゃいます。情報を正確に取り扱える方、期日までに処理を終えるために、症例ごとに優先順位をつけスケジュールを管理できる方が向いている仕事です。
医療系資格をお持ちの方
投与後の患者さんに起きた有害事象の経緯や状態、患者さんの背景、添付文書の情報などを読み取るために、医学・薬学の知識が必要不可欠です。薬のスペシャリストである薬剤師の方はもちろん、看護師や臨床検査技師として医療現場で活躍されてこられた方も、カルテや検査値から患者さんの容態を把握してきた知識や経験が活かせます。
理系(生物・バイオ・薬学・化学・農学など)の知識をお持ちの方
個々の患者さんの症状と、対象となる医薬品との因果関係を考察したり、集積された情報から一定の傾向や事実を導き出し報告書にまとめるといったプロセスでは、疫学・統計学を使って情報を分析するため、学生時代から培ってきた科学的思考や方法論が活かせます。 また、学会や研究論文では副作用に関連するものが日々発表されており、それらをフォローすることも大きな仕事のため、サイエンス関連の文献を読み慣れていることも強みです。
医薬関連の業務経験をお持ちの方
CRAやMRの方は日々臨床の現場で安全性情報に触れてこられ、情報の内容についてはすでになじみ深い方ばかりですので、即戦力として活躍ができます。ライフスタイルの変化などで外勤のワークスタイルを見直したい方は、これまでの経験とスキルを活かしてキャリアチェンジできます。
ニーズの高まりにより、未経験者にも活躍のチャンスが開かれている
近年は、バイオ医薬品などあたらしいテクノロジーによる医薬品の開発が盛んで、安全性管理の役割はますます高まっています。また国境を越えて世界中で使用されるため、グローバル規模で共有すべき情報のボリュームも年々増えてきています。そのため未経験の方にも活躍のチャンスが多くあり、将来的にも安定したニーズが見込めます。患者さんや医療に貢献できるやりがいのある仕事です。
※PMDA:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染などによる健康被害に対して、迅速な救済を図り(健康被害救済)、医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について、治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査し(承認審査)、市販後における安全性に関する情報の収集、分析、提供を行う(安全対策)ことを通じて、国民保健の向上に貢献することを目的としています。
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この記事を書いた人:
パーソルテンプスタッフ株式会社 研究開発事業本部所属 国家資格キャリアコンサルタント
更新日:2019.12.20 / 公開日:2017.09.26